東京地方裁判所 平成3年(行ウ)221号 判決 1992年10月16日
原告
津留憲二
被告
陸上自衛隊第一後方支援連隊衛生隊長
被告
陸上自衛隊第一師団長
被告ら指定代理人
飯塚洋ほか九名
主文
本件各訴えをいずれも却下する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
一請求
1 被告陸上自衛隊第一後方支援連隊衛生隊長(旧名称は「陸上自衛隊練馬駐屯地第一衛生隊長」)が原告に対してした平成元年三月一六日付け懲戒処分(停職一日)を取り消す。
2 被告陸上自衛隊第一師団長が原告に対してした平成元年八月一〇日付け懲戒処分(免職)を取り消す。
二被告らの本案前の主張
1 原告は、本件各懲戒処分を不服として、自衛隊法四八条の二、四九条に基づき防衛庁長官に対して審査請求をしたところ、防衛庁長官は平成二年六月二八日付けで右審査請求を棄却する旨の裁決(以下「本件裁決」という。)をし、右裁決は同年七月六日原告に送達された。
2 自衛隊法五〇条の二、行政事件訴訟法一四条四項、一項によれば、原告は本件裁決の送達を受けた平成二年七月六日から三か月以内に本件各訴えを提起しなければならないところ、原告が本件各訴えを提起したのは右法定期間を経過した後である平成三年一〇月二二日であるから、本件各訴えは出訴期間を徒過した不適法な訴えである。
3 原告は本件裁決に対し自衛隊法施行令八三条一項に基づき再審の申立てをしているが、右再審の申立ては行政事件訴訟法一四条四項の審査請求に該当しない。
三被告の本案前の主張に対する裁判所の判断
<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、本件裁決は同年七月六日原告に送達されたことが認められるので、同日原告は右裁決があったことを知ったというべきである。そして、原告が本件各訴えを提起した日が平成三年一〇月二二日であることは当裁判所に顕著な事実であるから、自衛隊法五〇条の二、行政事件訴訟法一四条四項、一項によれば、本件各訴えが出訴期間を徒過した不適法な訴えであることは明らかである。
ところで、原告は、本件裁決につき自衛隊法施行令八三条一項に基づいて再審の申立てをしたが、防衛庁長官は平成三年八月二六日付けで再審の申立ては同条一項各号に該当しないとしてこれを却下する旨の決定をし、右決定は同年九月一一日原告に送達された。そして、本件各訴えは右決定送達の日から起算して三か月以内に提起されていることが明らかに認められる。従って、本件再審の申立てが行政事件訴訟法一四条四項の審査請求に該当するとすれば、本件各訴えは同条一項の期間内に提起されたものであって適法であるということになる。そこでこの点につき検討するに、自衛隊法施行令八三条所定の再審の申立ては、再審事由が同条一項に列挙されている等いくつかの点において行政不服審査法八条所定の再審査請求とは異なるが、一方において、行政上の不服申立てとしての性格をも有していることは否定できず、また、その申立ては裁決または決定のあった日から三か月内にするべきことが規定されているうえ、防衛庁長官は右申立てがあった場合はこれに対する応答を義務付けられ、再審事由が存在するときには改めて審理し裁決するものとされているのであるから、審査請求に対する裁決につき再審の申立てをした被処分者に対し、右裁決のあったことを知った日から三か月以内に取消訴訟を提起すべきことを要求するのは現実的でないというべきであって、自衛隊法施行令八三条所定の再審の申立ては行政事件訴訟法一四条四項の審査請求に該当するというべきである。しかしながら、行政事件訴訟法一四条四項の審査請求は適法なものでなければならないところ、<書証番号略>によれば、本件再審の申立ては前記のとおり不適法であるとして却下されているうえ、その申立ての内容も結局のところ本件処分及び本件裁決の事実認定及び評価についてこれを論難するに過ぎないものであることが認められるから、本件再審の申立ては行政事件訴訟法一四条四項の審査請求に該当しない。
なお、原告は行政事件訴訟法一四条三項の正当な理由の存在を主張するが、既に判示したとおり本件各訴えが同条一項の期間を徒過している以上、同条三項の正当な理由の存在を主張する余地はない(同条一項の期間は不変期間であって、民事訴訟法一五九条により、当事者の責に帰することのできない事由によってこれを遵守することができなかった場合はその事由の止んだ後一週間以内に出訴することが許されるが、本件において原告の主張している事情は経済的問題及び職務遂行との関係で十分な準備ができず、本件訴えを期間内に提起することができなかったというもので、これが当事者の責に帰することのできない事由といえないことは明白である。)
四よって主文のとおり判決する。
(裁判官山之内紀行)